双子月

「え、朋香も出るの?」


テニス用のラケットバッグを肩に担いで、光弘が言った。

光弘はソフトテニスサークルに所属している。


幼少時から高校まで本格的にやっていたらしく、成績も多少残しているとか。

しかし大学ではバイトなどもあり、部活に入る程でもないので、時々サークルの試合に助っ人として参加したり、気晴らしに顔を出すだけだ。


「うん、そうなの。
せっかくだからアシスタント組も、エキストラみたいな感じでイイから出てって頼まれちゃって…」


朋香がちょっと困ったように笑いながら言う。


「大丈夫なんか?
人前で演技したりとか…」


「演技っていう程、大した役じゃないよ。
かぐや姫の付き人なの。
源氏物語から名前は取って『若紫』って言うんだけど、かぐや姫とロミオの仲を取り持とうとするシーンくらいしか大きな見せ場はないし…」


光弘を安心させる為…

はたまた自分に言い聞かせるように朋香は言った。



「改めて変な脚本だよなぁ…。
まぁ、真朝が書いたんじゃ仕方ないけど…。
じゃあ、美穂も出るの?」

変な笑いを含んだ溜息を1つ吐いて、光弘は朋香に聞いた。


「美穂はロミオ側。
ほら、美穂ってテーブルマナーとかもきちんと出来るから、何かこう、動作が綺麗で貴族っぽいでしょ?」


朋香はまるで自分の事のように自慢気に言う。


「そっか、そんで後は、華道部の瑠璃子が和風に攻める訳ね。
その辺の配役は、真朝でもちゃんと考えたんだな。
けど…」


光弘がチラっと横目で朋香を見る。

言わんとしている事は分かる。


「んも~、どうせ私だけ役柄に合ってないですよ~だ。
コレといった特技も、礼儀作法の知識もないし。」


拗ねた顔をしながら光弘の脇腹を突く。


「あはは、ごめんって。
でも、裏方では大活躍なんだろ?」

光弘は軽く朋香をかわしながら聞いた。


「うん、あそこまで大きな絵を描くのって初めてだから。
1人じゃ無理だから、美術サークルの皆にも少し手伝ってもらってるの。
平安時代や西洋の建物とか、部屋の中の資料を探すのが大変だったなぁ。
見つけてしまえば、後は描くだけで楽しいんだけどね。」


朋香の顔が輝いているので、光弘まで嬉しくなってしまう。


「演劇部は、余所のサークルまで巻き込みまくりだなぁ。
こりゃ打ち上げでパーっとしてもらわなきゃだね。」


光弘はイタズラっぽく笑って言う。


「う…
予算ギリギリでやってるから、そんな景気イイコト、してくれるかなぁ?」


次は真剣に考え込む朋香を見て、可笑しくて笑い出しそうになるのをこらえる光弘。