帰り道、瑠璃子がボソッと言った。

「何か真朝ってすごいよね。
あの溢れるパワーとか、羨ましいな…」


「確かにね。
でも、瑠璃子にも良いところはちゃんとあるのよ?
人を羨ましがってばかりでは駄目。
自分の良いところにも気付いて誉めてあげなくちゃ」


美穂が穏やかな表情で言う。


「ありがと…」

ちょっと照れて瑠璃子が微笑む。


「そういえば、瑠璃子にお熱だった人がいたじゃない。
悪い人じゃなさそうだったけど、お気に召さなかった?」


「ううん、そんなんじゃないよ、とても良い人だった。
ただね、何か私、臆病なんだ。
普通の恋愛なんて出来るのかなぁ…」


瑠璃子の言わんとする事が良く分からない美穂だったが、敢えて触れなかった。

誰だって悩みはあるし、それは必ずしも他人に相談しなければならない事ではない。

今の言葉だって自問自答のようなものだろう。



「さっきも言ったでしょ、忘れちゃ駄目よ。
恋愛なんてしなくてはいけない事ではないし、臆病な事が悪いっていう訳でもない。
むしろ、不安に想わない恋愛なんて、本当の恋愛ではないのかもね。
いろんな形があっても良いと思うわ。」


「そっかぁ…そうだよね…」


今度は少しスッキリしたような顔で瑠璃子は笑った。

自分の犯している罪を、少しだけ許してもらえたような気持ちになれたから。



「私もいつかは誰かを好きになるのかしら。
想像も出来ないわ…」

と、美穂も軽く笑ってみせる。


その時、2人の携帯が同時に鳴った。


『剛と付き合う事になりました★』


真朝からのメール。

2人は顔を見合わせて、さすがだね、と今日1日の中で1番笑った。



美穂と雫が不思議な関係になる、ほんの数週間前のお話。