「本当に真っ白ですね…」

「いくら雪が積もっていたとはいえ…
あんな薄っすら積もった位じゃ、普通は頭から血が出ますよ…」

「何回見ても、ただ眠っているようだ…」



何人の医者が見ても、何人の警察関係者が見ても、皆、口を揃えてこう言う。


それほどまでに『雫』、いや、”朋香”は綺麗だった。



痛みも後悔も一切ないような、安らかな顔。

目立つところでは、左手首にだけ痛々しい傷痕があり、それを隠すようにブレスレットが光っている。



溝口と有田、両方の強い希望で、年明けの成人式用に用意していた振袖を、死に装束の代わりに着せた。


真っ白な”朋香”には、紫生地にクリーム色の月柄の振袖が映える。

皆、綺麗だと、心を和ませた。



死に化粧も、振袖負けしないように、少し派手目にしてある。

白い顔に、潤いと弾力を見せる紅い唇。


今にも”朋香”の声が聞こえてきそうだ。

その”朋香”の声を聞き逃さないように、皆、黙って”朋香”を見つめるだけだった。



誰も泣かなかった。

だって”朋香”が苦しんでいないから。


決して良い選択をしたとはいえない。

だけど”朋香”が満足そうだから。


そして誰もが気付いていた。


いつからかは分からないけれど、途中から『雫』は『朋香』だったのだと。

誰も悪くないように、全て根回しをしておいた上で、”自分達”の望みを叶えたのだと。



「バカだなぁ、誰も『朋香』と『雫』を責める訳ないじゃないか…」

光弘が、ポツリと笑いながら囁いた。


「今日は皆、『雫』とお揃いよ…」

喪服を着た美穂も、笑いながら言った。



”朋香”が白い煙になって空へと吸い込まれていくのを皆、見上げていた。

まだ明るい空には、綺麗に真っ2つの半月が、薄っすら見えていた。

これから正に、満月へと満ちていく月。



(今から君の半身がそっちに逝くから…ね)


『そう、私達は2人で1つ…双子のような存在なの』


光弘の心の中の声かけに、『朋香』と『雫』の最期の声が聞こえた。