やっと林先生以外の声が聞こえた。


「鏡の迷路で、先生が俺に”あの子とは特別な関係なんだ”って言ったのは、この事だったんですか?
『雫』との事だったんですか?」


と光弘が言った。


「そういう事になるね。」


「俺は…
俺は『朋香』との事だと思って、あの時、『朋香』の手を振り払って軽蔑の眼差しを向けてしまった…。
初めて喧嘩をして傷付けた。
そしてこんな事故が起こった。
『朋香』を、『雫』を守ると言いながら、貴方の一言が招いた事じゃないんですか!?」


光弘は喰ってかかった。


「そう取られても仕方ないね…。
『朋香ちゃん』や『雫』から光弘君の事は聞いていたけど、学園祭の時に会って確信したんだよ。
君達は本音でぶつかり合うべきだと。

『朋香ちゃん』という土台がしっかりしていないと、『雫』が大人しくしていられないからね。
『雫』には全てを知っている僕がいるけれど、『朋香ちゃん』には事情を知らない、ただただ優しいだけの彼氏と友達しかいない。

だから喧嘩をするようにちょっと吹っかけてみたんだけど、瑠璃子ちゃんの事が僕にとって想定外だった。

それがこういう結果に行き着いてしまった。
その点は反省しているよ。」



光弘は言い返そうと一生懸命考えていたが、それより先に美穂が口を開いた。



「『雫』には私がいるって言ったじゃないですか!
それは先生も『雫』から聞いているでしょう?
私達が一緒にいる事で、お互いどれだけ安心しているかを…。
医師と患者の関係を越えているわ、先生と『雫』は。
倫理的・世間的に許されるはずがない!」


そこまで一気にまくし立てて、美穂はある事に想い当たった。


「あ…ごめんなさい、私…」


“倫理的・世間的に許されない”という言葉に、瑠璃子が反応した。


「あ、別に瑠璃子の事を言った訳じゃ…」

美穂が慌てる。