診察は瑠璃子の病室で行われた。

瑠璃子の母親も、瑠璃子の隣に座っていた。


「瑠璃子ちゃん、あれから調子はどう?
お薬はちゃんと飲んでいますか?」


との林先生の問いに、瑠璃子は、


「お薬は飲んでます。
調子は…あまり良くないと…思う…」

と、自分でも良く分からないという風に答えた。


「何で昨日は外出したのかな?
何か、目的があった?」

「よく覚えてないけど…
家に独りでいるのが怖くなった。
自分を傷付けるモノが家の中にはたくさんあって、それから逃げるように…」


すると、瑠璃子の母親が涙ぐみながら口を挟んだ。


「私の、私の認識が甘かったんです…。
この子を1人家に残して、夕飯の買い物に出かけたんです。
部屋で大人しく寝ていると思って…そして帰ってきたらいなくて…。
私がもっとちゃんとしていれば、今回の事は起こらなかったのに…」


皆に申し訳ないと、瑠璃子の母親は手で顔を覆いながら声を絞り出した。


「お母さん、そんなにご自分を責めないでください。
誰だって最初は戸惑うんです。
本人も周りも。

私の見通しも甘かった。
緊急入院させるという手もあったのに、自宅観察を選んだ。

この子達は多感な時期です。
子供でありながら、親の手を離れたところで自我を確立させていく。
いろいろな経験をして、成長したり、つまづいたり…。

これもその過程の1つです。
瑠璃子ちゃんだけの問題ではないんです。
朋香ちゃん達を含めた、彼らにしか分からない、乗り越えるべき壁にぶつかっているのが今なんです。
私達は結局、少しの介入しか出来ない。
けれど、彼らが大きく成長する為に、いつかは通らなくてはならない道が、今、目の前に迫っているんです。」


林先生はゆっくりと瑠璃子の母親に言い聞かせるように言った。