バイトが終わって携帯のメールを見た光弘は溜息を付いた。


『ちゃんと話がしたいです』


…そりゃそうだよな…

今まで1度も喧嘩らしい喧嘩なんて、した事がない。


喧嘩をするまでもなく、朋香を大切にしてきた。

病気の事も、それが障害だとか、逆に愛を深めるモノだとか、そういう風に考えた事もない。

甘やかしていたつもりもない。

お互いがお互いを尊重し合って、大切に想えて、愛しく想えて一緒にいるのだ。



ただ、この間の学園祭。

あの鏡の迷路で初めて朋香の主治医と2人きりで話をした時。

あれから自分の頭の中の回線がおかしくなった気がする。


俺は本当に朋香を見てきたのか?
朋香は本当に俺を見てきたのか?


『ちゃんと話がしたい』


自分だってそうだ。

このモヤモヤを取り払って、また肩を並べて笑い合いたい。

もう離れたいとは想わない。



だけど、分からない。

『ちゃんと』

何が『ちゃんと』なのか分からない。


形にならないドロドロした感情が、全身を巡っている感じがする。


朋香にはこんな気持ち、分からないだろうな…。

でもお互い様だ。

俺だって朋香の気持ちは分からないんだから…。


そこで光弘はふと気付いた。



―対等―



そうか、対等なんだ、同じなんだ。


『何かが分からないから、ちゃんと話がしたい』


この気持ちは一緒なんだ。

『ちゃんと』は話せないかもしれない。

だけど、今までぶつかり合った事がないので、良い機会なのかもしれない。


もしかしたら上っ面だけで、怖くて踏み込めていない、見なければならないのに見えないフリをしていた、深い部分に触れる時が来たのかもしれない。

そこを乗り越えてこそ、本当にお互いを尊重し、大切にし、愛しく想える恋人同士になれるのではないか。