雄一は、一言も何も言えなかった。

家の中に入って行こうとする瑠璃子の腕を掴む事すら出来なかった。



ハンドルをガンっと両手で殴って、


「くそっ…せめて、せめて…
こんな男、大嫌いだと言ってくれよ…」


と顔をうずめた。



瑠璃子は2階の自分の部屋に入って、そっとカーテンの隙間から雄一の車を見ていた。


やがて、車は会社の方に向かって走り出して行った。



その瞬間、瑠璃子は膝の力が抜けて、床にペタンと座り込んでしまった。




「                  」




声にならない。
声が出てこない。



昨日の夜から貯めていた涙しか出てこない。

泣き崩れて泣き崩れて、これでもかと泣き続けた。

泣く以外に、この行き場のない気持ちを表現する方法を瑠璃子は知らなかった。



机の上にカッターがある事に気付くまでは…。