「俺は…美和子と優を選ぶべきだよな…
それが普通だよな…」


雄一が呟いた。


剛はさっきまでそれが当たり前だと思っていたのに、いざ雄一がそういう事を言い出すと、何が正しいのか分からなくなってしまった。


「選ぶべき、だなんて…恋愛は義務じゃない。
本当に愛し合っている者同士がいてこそ、本当の恋愛だろ?」


雄一はちょっと驚いた顔をして、剛の方を見た。


そう口にした剛本人が1番ビックリしていた。

手を口に当てて、自分の矛盾を不思議に思った。


そんな剛を見て雄一は、あの入社式の日と同じ、柔らかい、しかしどこか哀しみを帯びた目で笑った。


そして雄一は、瑠璃子との馴れ初めを1つ1つ噛み締めるように想い出しながら、語り始めた。

話していくうちに雄一の目からは憂いが消え、極上に柔らかい笑顔になっていた。


「そっか…、そんな事があったのか。
あれ、って事は…
あの合コンに来た時は、もう瑠璃ちゃんはお前と付き合ってたって事か?」


と剛が言うと、


「え?
真朝ちゃんと付き合う事になったって言ってたあの合コン、瑠璃ちゃんも来てたの?」


と雄一がきょとんとした顔で答えた。



剛は「あ、やばかったかな…」と一瞬思ったが、雄一はクスクス笑っていた。


「瑠璃ちゃんの事だから、断りきれなかったんだろうな。
しかし、お前が瑠璃ちゃんを狙わないでいてくれて助かったよ。
お前と女性の取り合いだけは、絶対したくないもんなぁ…」


また、桜の時の笑顔だ。


剛は気付いた。

雄一のこの柔らかい笑顔は、心を許した者にだけ見せるという事を。

今、間違いなく、雄一は自分に心を開いている。

他の同期や先輩後輩じゃ駄目だ。

自分だからこそ、雄一の隣にいる資格がある。

剛にはそう確信する自信があった。


「やっぱりあの桜吹雪の中で急いでいるお前を見た時に、そして入社式で席が隣だった時に、こいつなら親友になれるかも…と想った勘に間違いなかったな。」


ほら、雄一が言った。


ここに辿り着くまで数年かかったのはお前の不器用さのせいだからな、と剛は笑った。