「先輩、あたしの名前、知ってますか?」 「……え?」 言っちゃった。 って思った時は、もう遅くて。 でも先輩、初めて質問にちゃんとしたリアクションをくれた。 普段なら喜ぶこのシーンも、今は喜べない。 涙で、前がぼやけて。 先輩の表情すら見えない。 「大丈夫?」 さすがに引かれた、と思ったけど。 先輩は至って優雅な動作でハンカチを取り出すと、スッと差し出した。 でも、受け取らない。 涙を覆う手が、動かないんです。 「っ……ぱ、…あたし……ぃっ…」 「何?」