午睡は香を纏いて

「……そ、そうじゃなくてですね! あたし、サラって人じゃないです」

「いや、サラだ。俺はサラを間違えないから」


自信ありげに言って、男はいきなりあたしの頬を、舐めた。


「んな……っ!?」

「うん、君はやっぱりサラだ」


サラとおんなじ味だ、男は満足そうに頷いた。
反射的に真っ赤になるあたしと共に、周りにいた集団が悲鳴を上げた。


「意味わかんない!! 何この人」

「探してる人って森瀬のことだったわけ?」

「でも森瀬は知らないっぽくない? つーか、どうなってんの?」

「ヤバそうなカンジなんだけどー。変なモンしょってるし」


え。
あんたたちの知り合いじゃないの? 逃げ腰の集団の様子が横目に入る。
助けて、はくれないだろうか、やっぱり。


「あ、あの……」


舐められた頬に手をあてて、あたしはにこにことしている男を見た。
どう見ても、あたしはこの人を知らない。
『サラ』なんて名前に聞き覚えもない。
完全にこの人の勘違いのはずなのに、この自信はどこからくるのだろう。
 
とにかく話をして、変な誤解を解かなくちゃ。


「じゃあ、行こう?」

「は?」


ずい、と男が手を差し出した。
行く、って、どこへ?
目の前の手の平をぽかんと見てしまう。


「お前が存在していた世界。俺たちの世界に、帰ってきてくれ」

「あたしのいた……せかい?」


意味が分からない。
あたしのいた世界、ってどういうこと?


「みんながお前を待ってる。カインも」

「カイ、ン?」

「そう。とにかく、行こう」