山荒の鳴く夜

「あれが…山荒…」

人斬り働きで胆力を鍛え、大抵の事では動じなくなっていた椿が思わず呟く。

獣というには異形すぎる。

人間というには凶悪すぎる。

その姿はまさしく『人外』。

人の理解の範疇を超えた、『人』以『外』の生き物だった。

その人以外の生き物は。

「くくっ…」

「!」

椿達の見ている前で、喉の奥を鳴らすような笑い声を上げた。

喋る?

この化け物、人間の言葉を喋るのか?

椿も平助も、同じ感想を持つに至る。

そんな二人の前で。

「山荒だと?」

人外は確かに喋った。

「何言ってやがる。俺はそんな名前じゃねぇよ」