別に夕吉は、自分が叩かれたことに怒りを感じているわけではなかった。

 怒りを感じているのは、飛鳥井が夕吉を叩くものに、小説を使ったことだ。

 そして、本を物質に取られてしまったこと。





 元を辿ればHR中に読書をしていた夕吉に負がある。

 しかし、本の世界に閉じこもって周りのことなんて見えていない夕吉には通じやしない。


 前の担任は少し変わった教育観をもっていて、HR中に読書をする夕吉をそれも個性だと甘受していた。

 それでも担任なりにも、HRで聞き逃した事をクラスメートに尋ねることでコミュニケーションのきっかけにならないかという“ねらい”があったのだけども。




 とにかく苛立ちを抱えたまま放課後、夕吉は職員室ではなく、真っ直ぐ図書室へと向かったのだった。