千晴が新しい教師の噂を聞いてワン・ツー・ステップで図書室に来る少し前のこと。
徒野夕吉は、苛立っていた。
平生ならば、本を読めばたちまち忘れてしまう筈なのに、今までにない苛立ちはいくら活字を読んでも消えなかった。
ところで何をそんなに苛立っていたかというと、勿論、朝のHRの出来事である。
「HR中に読書とは良い度胸だな、徒野」
そう言った飛鳥井は、つかつかとピカピカに磨かれた革靴を鳴らして夕吉の座席の前まで歩いて来る。
そして夕吉の手から小説を抜き取ったかと思えば、躊躇いなく小説を軽く掲げて、夕吉の頭へ振り落とした。
ぱんっ。
静まり返っていた教室に切れの良い音が響く。
「放課後、職員室に来い」
そして固まったように動かなくなった夕吉に背を向け、飛鳥井は何事もなかったように教壇へと戻っていった。
その手に夕吉の小説を持ったまま。
つまりは人質ならぬ、本質。
返して欲しくば、放課後職員室まで来いということだった。
夕吉は、怒りのままに肩を震わせた。
徒野夕吉は、苛立っていた。
平生ならば、本を読めばたちまち忘れてしまう筈なのに、今までにない苛立ちはいくら活字を読んでも消えなかった。
ところで何をそんなに苛立っていたかというと、勿論、朝のHRの出来事である。
「HR中に読書とは良い度胸だな、徒野」
そう言った飛鳥井は、つかつかとピカピカに磨かれた革靴を鳴らして夕吉の座席の前まで歩いて来る。
そして夕吉の手から小説を抜き取ったかと思えば、躊躇いなく小説を軽く掲げて、夕吉の頭へ振り落とした。
ぱんっ。
静まり返っていた教室に切れの良い音が響く。
「放課後、職員室に来い」
そして固まったように動かなくなった夕吉に背を向け、飛鳥井は何事もなかったように教壇へと戻っていった。
その手に夕吉の小説を持ったまま。
つまりは人質ならぬ、本質。
返して欲しくば、放課後職員室まで来いということだった。
夕吉は、怒りのままに肩を震わせた。