(え、)
千晴の体は固まった。
近衛の言葉は明らかに不良に向けたものではない。
この場にいるのは、近衛と不良と千晴しかいないのだから、当然…。
「一緒に悪をやっつけようね、九十九さん」
不良から視線をそらした近衛の瞳は、千晴の姿をしっかり捕らえていた。
ぎぃァアあああああ!!
そんな悲鳴が視聴覚室一杯に響き渡る。
不良達はともかく、近衛は始めから千晴の存在に気付いていたのだ。
別に隠れていたわけではなかった千晴だが、それでも近衛や不良達は気付いていないと思っていた。
「俺達、同じ臆病者同士で復讐してやろう」
「……」
近衛の言葉に千晴は言葉が出てこなかった。
というより、何も喋りたくなかった。
嘘つき。
千晴は泣きそうになる。
何が、臆病者同士だ。
ほんの少し前まで千晴だってそう思っていた。
もしかしたら近衛と高校生活最初の友情が芽生えるかもしれない、と一人くすぐったい気持ちにもなった。
−…でも違う。私は一度もこんなのを願ったことなんてない。
「……間違ってる」
千晴は捨て鉢な気持ちで、思ったことをはっきりと述べた。


