(来るんじゃなかった…)
愉しい表情で不良達を見渡している近衛を見る。
千晴は泣きそうになった。
(頼の馬鹿。何が、“近衛隆太が危ないかもしれない”だよ…まあ、ある意味間違いではないけれど)
近衛隆太は、危ない人だった。
何度も真実を聞いていたのに、心の何処かでは、こんな爽やか少年が番長を倒したり不良を従えたりするはずがない、なんて考えていた。
「アハハ!…な、おまえらにイジメを受けてた俺が番長の位置につくのが、おまえらにとって面白くなかったなんてこと、わからないはずがないじゃないか」
近衛の言葉に、不良達は苦虫を踏み潰したような顔になる。
それを満足そうに汚れない少年みたいな顔をして笑う近衛。
「不良みたいに群れて集まって少し強いからっていい気になってる奴は、嫌いなんだ。人に暴力を振るう奴なんて皆死ねばいい」
これは、近衛隆太の正義論だ。
千晴は、近衛の正義論を否定できるほどの考えを持ってはいない。
千晴は、視聴覚室の入口で息を潜ませ、早く事が終わるのを静かに待つ。
こんな居心地の悪い場所とっとと抜け出して、温かい夕飯が待つ家に帰りたい。
(終われ、終われ、終われ終われ終われ…!)
いや、この際もう帰ってしまおうか…。
「言ったよね、一緒に奴らに復讐しようって」


