「ちはる」

 甘ったるさを含んだ低音。

 好きだなんだ言っておきながらも、千晴の怒りは頼には通じないようだった。


「人間て、ほんっと面白いんだよ」

「つまんないよ」

 人には、個々に価値観や感受性がある。


 “あなたにとって人間とは?”という問いを投げかけたならそれは、

 夕吉にとって“どうでもいい”存在であり、

 千晴にとって“恐ろしい”存在であり、

 頼にとっては“面白い退屈しのぎ”なのだ。



「でも、一番ちはるが好き」


 瞳の奥にうずく艶めきの色は、ガーネット。

 まるで蝋燭の火のように揺れる瞳に捕まってしまえば、二度と戻れない。千晴は、そう思った。


「だから、徒野夕吉も近衛隆太も邪魔なんだよ」

 頼は、そう言って困ったように笑った。