「頼っ!」

 千晴は、叫んだ。

 その声の大きさに、頼は目を剥く。


 これほどまで必死になる千晴の様子を見るのは、初めてだった。


 肩で息をし、疲れたような目で頼を睨みつける千晴。

 千晴が今、学校生活で浮いている原因である噂を流した犯人が頼だと知った時でさえ、これほどまでに怒ったりしなかった。


「近衛さんの矛先が徒野くんに向くようにしたの?…それとも、私みたいに学校から浮いた存在にしたかった?」


 千晴は、思い出す。


 高校一年目の春、
 ようやく慣れ始めた教室。

 番長に絡まれた翌日から、突然よそよそしくなったクラスメートや先生。

 空気みたいに息を潜めて、千晴は、教室の隅でじっと動けなかった。





 それでも、千晴は見つけた。


 人よりも本が大好きで、活字だらけの世界で生きてきた何よりも崇高で孤高な、彼を。


「そんなことしなくたって、徒野くんは十分ぼっちだよ」

 千晴にとってはフォローのつもりだったが、頼は思いがけずズコーッとなるところだった。



 しかし、千晴が憧れ惹かれているのは、夕吉が人付き合いを避けているところなのだ。

 当の本人は、それを初恋だと信じている。