夕吉にとって、“どうして他人に任せておきながら自ら足を運んでんだよ”だとか“どうしてタイミングよく空気読めずに入ってくるんだ”とかいう疑問は、どうだってよかった。
だから、吾平に対しての第一声は、こうだった。
「うぜえお前は青酸カリでも飲んでろよ」
「う、うぉ!?何、そんな怒ってんだよ」
「アンタのせいで、ややこしい事に巻き込まれてんです…あー帰りたい疲れた」
「まあ、安心しな。吉報だぞ」
「あ、別に言わなくていいです」
「もう“帰っていい”」
にかっと快活に笑ってみせる吾平。
夕吉は、明らかに不快気な気持ちを表情に浮かべて吾平を見た。
「すみません、言ってる意味がわからなかったからもう一度言ってもらえます?」
「番長の件は放っておいても片が付く。だから、帰っていいぜ」
「お前が魔界へ帰れよ、意味わからん」
こんな面倒事から解放されたいと思っていた夕吉にとっては、喜んで頷いていいはずだ。
だが、夕吉は喜ぶこともしなければ、頷きもしなかった。
あまりにも唐突過ぎるのだ。
自分は、何もしていない。ただ先ほど向こうの勘違いで、標的の近衛に思いきり殴られたが…。
「番長…近衛隆太は、明日から学校に来れないだろうぜ」