「う、」

 千晴の上に重なるように倒れた夕吉が小さく呻く。


「徒野くんっ」

 悲鳴に近い声で千晴は叫んだ。


 痛みからか眉を潜める夕吉の向こうで、近衛は爽やかに笑っている。


 近衛が夕吉の腹部を殴ったのだ。

 遠慮のない力で思いきり。



「避けなかったのは正解だったね」

 ゲホゲホと咳込む夕吉や千晴を見下ろして近衛は言う。


「だって、もし避けてたら間違えて九十九さんに当たってただろうから」



(なんだ、この人…)

 千晴は言葉を失う。


 不審気にみると、近衛は微笑む。それに千晴は、ぞっとした。



 近衛隆太という人間の片鱗を初めて見た気がしていた。