「どうしよう、どうしよう」

 千晴は、ただの臆病者。


 そんな臆病者の願う高校生活では、恐い男子や先生にも目をつけられず仲良い友人と平和で安全でのほほんとした毎日を過ごす予定だったのに。




「も、もう…さすがに行ったよね」


 ふぅ、と胸に溜めていた息を吐き出した時だった。


「いたっ」

「ん?」


 ドッ、という鈍い音と共に容赦ない頭部の痛み。

 どうやら机の下にいる千晴に気づかない誰かの足が当たったらしい。


 千晴は頭を押さえながらひょっこり机から顔を出した。




「…あの、」



 はじめに見えたのは細長い脚。

 千晴は恐る恐る視線を上げる。




 こちらを見つめる涼しげな目元。

 きっちりと留められたボタンに、真っ黒の学ラン。

 ページを捲る細くしなやかな指先。


 窓から光と風が入ってくると、綺麗な黒髪が、誘われるように揺れて。




「ちょっと、図書室でかくれんぼは禁止なんだけど」


 薄い唇から綺麗な声が流れてきた。