「えーと、九十九さん……でいいのかな?」
目の前のソファーに座って、千晴の名前を間違いがないように不安そうに確認している穏やかそうな少年を、誰が不良の番長だと見抜けるだろうか。
見抜ける筈がない。
ましてや千晴は、自分と同じチキンのにおいがする少年の後にのこのこ旧校舎までついてきてしまったのだから。
「あぁあ…はい、九十九、です」
「そう…知ってるかもしれないけど、俺は近衛隆太(このえ たかた)。一応、この学校の不良を仕切ってる…えと、これからよろしく」
にっこり笑顔の彼は爽やかキュートボーイ。
彼を囲むように控える人間は皆、チャラ男や血がついた鉄パイプを持ったリーゼントとかで、その中で明らかに彼と千晴だけが普通の高校生として浮いている。
(…近衛 隆太。)
千晴は、小さく小さく彼の名前を反復した。
(確か、近衛、さんて…前の番長(わ、わたしがヨーグルトかつあげされた)を倒して新しい番長になった人だよ、ね)