「は、何それ」
「徒野くんがすきです」
「え、よくわかんないんだけど」
「徒野くんがすきです」
「同じことを二度も言わなくていいから、むしろ黙れ」
「徒野くんは、どのくらい私がすき?」
「わかったから、ぶっころしていい?」
夕吉は、とりあえず鼻で笑って軽くあしらった。
(そんな、ばなな…)
誰かを好きになったことのない夕吉にとって、千晴が言うこと全て未知なる言葉だ。
そりゃあ、夕吉は恋愛や青春ものの小説を何冊も読んだことがあるけれど、それが、まさか、自分の身にも起こるとは。
しかも、これまでに夕吉と千晴の接点なんてないのに。
「それって嘘なんじゃないの?」
その時、千晴は落雷に打たれたかのような気分になった。
打たれたことはないけれども。
「わ、わかんない」
「………は?」
困ったように首を傾げた千晴に、夕吉は目を点にする。
「だって、ちゃんと相手してくれるのって、徒野くんだけ、だから」
千晴は、置いてきぼりにされた子供みたいな寂しい目をしていた。
(ちゃんと相手にしてくれる…?)
夕吉は、きちんと相手にした覚えがない。
ふと、
「ま、いっか」
これ以上、真面目に考えたってどうしようもない事に思えた。
それから、夕吉は不思議そうな顔をする千晴を無視して、千晴のグラスに注がれた麦茶を飲みほした。
「あ、それ私の」「知ってる」