氷の姫君

しばらくレンさんは黙っていた。

「あの、どうしたんですか?」

声を掛けるとハッとしたような表情を浮かべるレンさん。

「あ、ごめんごめん！月華ちゃんは優しいんだね。」

「優しくなんかないですよ。」

「いや、優しいよ。この世界の住人は自分のことしか考えていないからね。僕もそのうちの一人なんだよ。」

皮肉めいた微笑を浮かべる。

「レンさんはほかの人の事も考えてくれているじゃないですか！」

「え?」

「だってダルジェのこともきちんと考えてくれているじゃないですか。それに見ず知らずのダルジェの家に居候しているだけの私にも優しくしてくれるじゃないですか！」

「それは当たり前のことだよ。」

月華の迫力に負けて少し躊躇しながら答える。

「私はその当たり前を優しさと呼ぶべきだと思いますよ?」

今度は優しく微笑む月華。

この子はいろいろな表情をするんだな。

「ありがとう。月華ちゃんは温かい心を持っているんだね。」

「ダルジェが教えてくれたから。」

「ダルジェが?」

「はい。あの、私の事ダルジェからなんて聞いてますか?」

「人間ではない生き物だとは聞いているよ。」

「私、雪女なんです。」

「雪女?あの雪を操るという?」

こくんと頷く。