「…朱里、彼帰っちゃったけど。よかった?」




「あ、はい。いいんです。行きましょっか」





あたしは何もなかったように、


鞄を持って立ち上がる。


諒司先輩も担任に呼び出されて、


雑用させられたみたいで、


担任の愚痴をたくさん言っている。


あたしは相槌を打つも、


ほとんど頭に入って来なかった。


だって、十夜が。


あんなこと言うから。


可愛くなったなんて、


言うものだから。





「ここ!入ろうぜ!」




気付いたらカフェの前にいて、


諒司先輩に誘導されて席に着く。


こんな所、出来たことも


知らなかった。




「俺ケーキにしよっかな。朱里は?」




「あたしは…カフェオレで」




店員さんに注文すると、


すぐ運んで来てくれた。


諒司先輩はケーキを。


あたしはカフェオレを。


結構美味しい。


ていうか、好きかも。


そう思っていると。





「朱里さ、さっきの彼のこと好きだろ?」




不意打ちで、そう言われ。


抑えられずに吹いてしまった。





「藤田十夜くんだっけ。有名だよね」




「え、有名?」




「うん。美男美女カップルって」




あ~、里菜ちゃんか。


うん、確かに美男美女。


それでもって、結構有名。





「何で好きなの?」




「あはは…、彼女いるのにあたし痛い子ですよね」




あたしは笑って誤魔化す。


だけどいつも笑ってる先輩は、


くすりとも笑わない。




「笑ってくださいよ~、もう…」




「笑わない。だって朱里、泣きたいんでしょ?」




ピンポーン。


そう言ってやろうかと思った。


そう、あたし。


今十夜の話をしたら、泣いてしまう。