2学期が始まって数日。


もう9月の半ばだというのに、


夏並みの気温の今日この頃。





「じゃあ先帰るね」




「また明日」




恵衣と麗華を見送り、


1人教室に残る。


本当はすぐにでも帰りたいんだけど。


諒司先輩が、駅前に出来た


カフェに行きたいって


言うから仕方なく彼が来るのを


待っている。


さっき入った、先生に


呼び出されたというメール。


あたしは何もすることがなくて、


小さく鼻歌なんか歌ってしまう。


誰もいない教室なんかにいるのは、


いつぶりだろう。


なんて考えている時。





「朱里?」





廊下から名前を呼ばれた。


あたしは少しびっくりして、


間抜けな声が出る。





「十夜、」




「何やってんだ、1人で」




中に入って来る十夜に、


少し緊張する。


2人で話すのなんて、


最近なかったから。





「あ、うん。ちょっとね。十夜こそ、何してたの?」




「担任に雑用させられてた」




そっか、と。


そう言って少しの沈黙。


今日は天気が良くて。


夕日が照っていて。


十夜に降り注ぐ陽の光が、


すごく眩しい。





「朱里」




「ん?」




十夜は1歩近付いて。


あたしに向かって。




「最近可愛くなったな」





そう言った。


可愛く、なった?


あたしが?




「な、何言ってんの。びっくりしちゃった」




動揺丸出しのあたし。


そりゃそうなるでしょ。


だって、可愛くなっただなんて、


普通言うもんじゃない。





「十夜、あたしっ…」




「朱里、ごめん!遅くなった!」




何を言おうとしたのか。


諒司先輩の足音と声で、


一瞬で消えてしまった。





「っと、お取込み中だった?」





「いや、俺が邪魔っすね。すいません」




十夜は諒司先輩にそう言って、


あたしに何も言わず背中を向けて


教室を出て行った。