そして十夜はあたしの手首を
掴んで、引っ張って行く。
どうしたの。何で。
髪にかけていたタオルが
床に落ちたけど、
拾うことも許されず。
あたしは十夜に連れて行かれた。
「十夜…っ、ねえ、」
さっきから何を言っても、
答えてくれなくて。
非常階段を下りて行きながら、
あたしは自然と涙が出た。
十夜をまた怒らせた。
あたしは、いつも十夜を怒らせる。
「十夜…、どうしたの?ねえ、十夜っ」
十夜はホテルの1階に着くと、
人気のない自動販売機の前で止まり。
あたしの手を離した。
「十夜…」
「何だよ、あれ」
いつもより低い声で、
そう言いながらあたしを見る。
「あれは、その…っ」
「何であいつがあそこにいんだよ」
「それは、あの…」
言葉が上手く出て来ない。
ちゃんと言いたいのに。
何にもなかったよって。
言わなきゃならないのに。
何を言っても、言い訳にしか
ならないような気がして。
「あんな奴に、気許してんじゃねーよ」
十夜はそう言い残し、
あたしを残してその場を去った。
十夜が怒ってた。
怒る理由は分かんないけど、
春斗のことになると
いつも怒る。
十夜は春斗が嫌いなの?
だから怒るの?
理由も分からないまま、
部屋に戻ることが出来ず。
自動販売機の前のベンチに
座ることにした。
すると、ポケットが震えて。
そういえば携帯持ってきてたっけ、と。
携帯を取り出して、
誰かも確認しないまま電話に出ると。
『朱里?今、どこ!』
「恵衣…?」
慌てたような恵衣の声を聞いて。
気が緩んで、号泣した。
「1階の…自販機の、前っ…」
『待っててね。今行くからっ』
恵衣はそう言うと電話を切った。
言葉の通り、
1分もしないうちに
恵衣と麗華が来てくれた。



