「いかがですか?」
そう店員さんに言われて、
春斗は黙ったままあたしを
見つめた。
何、じっと見ちゃって。
いつもみたいに、
似合わねぇって。
罵れば…。
「すっげぇ可愛い」
よかったのに。
変なのって言ったら、
うるさいなって
言い返したのに。
「可愛らしい彼女さんですね」
「はい」
いつもの春斗じゃないから。
調子、狂うじゃない。
「じゃあ彼氏さんもお着替えどうぞ」
「あ、すいません」
そう言って春斗は、
奥に向かって行った。
あんなに素直な春斗は、
慣れていないから。
「お待たせしました」
不覚にもドキドキさせられた。
「彼氏さん、いかがですか?」
「あ、いっ、いいと思います…」
春斗は普通にしてても、
かっこいいから。
「よくお似合いです」
店員さんも、かなり
メロメロの様子。
あたしは後ろで、
あんなかっこいい彼氏で
羨ましいです、と。
そう言われた。
彼氏なんかじゃない。
彼女なんかじゃ、ない。
「お時間の許す限り、どうぞお楽しみ下さい」
店員さんに見送られ、
2人で店を出る。
借り物の小さなバックと、
カラカラ鳴る下駄が古風で。
「腹減ったな」
「さっきご飯食べたばっかりだよ」
「アイス食いたくね?」
通り過ぎる周りの人たちが、
次々に振り返る。
恥ずかしくて、
顔が上げられない。
「すいませーん」
近くにあったアイス屋さんに
寄って声をかける。
中から出て来たおばちゃんは。
あたしたちを見るなり、
目を丸くさせて。
「あら、新婚さんかね?」
そう尋ねて来た。
「ち、違いますっ!あたしたちまだ高校生でっ…」
「そんな衣装来てるから、新婚さんかと思ったよ」
そのおばちゃんの話によると。
あたしと春斗が着ている服は、
恋人同士や新婚の人が
着る服なのだとか。



