「あたしおかわり行って来るっ」
「あ、あたしも」
恵衣と麗華はお皿を持って
もう1度並び始めた。
嘘でしょ。
この状況で、
2人きりにする?
「朱里」
「何、武井くっ…」
すると彼は、
突然あたしの口を手で塞ぎ。
「春斗」
「んっ…」
「春斗って呼んでくれたら、離してやる」
呼べるはずないのに。
この男はうっすら笑みを浮かべて、
あたしに迫ってくる。
あたしはその距離に我慢できなくて、
分かった分かったと首を振って見せた。
「春、斗…」
「いい子だね、朱里ちゃん」
まただ。
またこいつのペースに飲まれてる。
逆らえないのが、悔しい。
「お待たせ~!」
デザートをたくさん取って来て、
美味しそうに頬張る恵衣。
食べながら、思い出したように
話し始めた。
「ね、朱里。いつから武井くんと仲良くなったの?」
「別に仲良くなんかないよ」
「よく教室とかでも見るし」
「それは春斗が」
そう言うと。
麗華が驚いたような目をして。
「呼び捨ての仲、ね」
と呟いた。
それを聞いて春斗は。
勝ち誇ったようにあたしを見た。
これはややこしいことになった。
こいつの。
春斗のせいで。
「夕方にはこの場所に集合すること。それまでは気を付けて観光するように」
関根のかけ声で、
それぞれが解散する。
「朱里!」
「来海、探したよ~!」
班員が揃い、観光に出発。
来海が歩きながら、こっそり。
「あたし、大智のこと気になっててさ」
大智(ダイチ)とは、松本くんのことで。
あたしはそれを知って、
今日1番で驚く。
来海が松本くんを好きだなんて、
思ってもみなかった。
でも結構お似合いだったりして。
だって松本くん優しいし、
絶対大切にしてくれる。
「この修学旅行でもっと仲良くなりたいの」
「上手くいくように、応援してるね」
何だか楽しくなってきて。
誰かの恋が上手くいくことほど、
嬉しいことはない。



