あたしは好きでもない
ジュースを手に取った。
すると十夜は、
顔を歪めて。
「こっちだろ」
そう言って、あたしの
好きなジュースと入れ替えた。
本当に、十夜は、
何でも分かってくれてる。
こんな些細なことだけど、
嬉しいと思えるのは。
恋をする乙女だから。
「ありがと、十夜」
スーパーを出て、
早速飲み物を口にする。
大好きなジュースを、
大好きな人に買ってもらえて、
もう大満足。
ペットボトルを握りしめていると。
「さっきの話さ」
「ん?」
「別れたって、まじ?」
スーパーに来る時は、
1人分空いていた空間が。
今はもうなくなっていて。
今にも触れられそうな、
そんな距離で。
「十夜もなんでしょ?」
頷いた後に、そう言ってみた。
ずっと聞きたくて、
聞けなかったこと。
「まあな」
十夜は平気な顔でそう言った。
あたしはそれだけで、
もう嬉しくて仕方なかった。
「何で、別れた?」
「それは…、」
そう言われて、
別れた日を思い出す。
諒司先輩が、あたしのために、
別れようと言ってくれたこと。
背中を押してくれたこと。
あの日があるから。
諒司先輩がいるから。
今のあたしがここにいる。
「また、いつか話す…ね」
何だ、それ。と。
含み笑いであたしを見る。
いつかまた、言えるだろうか。
時間が経ったら、
もう1度十夜に伝えられるかな。
好きです、って。
ずっと好きでした、って。
あなたがいないと、
もう無理です、って。



