雨のち晴






軽く首を振ると。


そっかと言って、


ぽんぽんと髪に触れた。





「気を付けて帰れよ」





「うん、またね」





珍しく優しい顔で。


武井くんに救われた。


彼は案外、優しい人。


いい人なんだって、


見直した瞬間だった。





「よーし、休憩にするか」




教室で関根と十夜と3人で


修学旅行のしおり作り。


丁度7時になった所で、


関根はあたしにお金を渡し。


飯買って来て、と言った。





「行くぞ」





十夜はそれだけ言うと、


あたしを待たずに玄関に向かった。


これだけ十夜が、


あたしを見てくれないのは


初めてだ。


近くのスーパーに向かいながら、


何も話さない十夜の後ろを歩く。


寂しい。


そう思うのに、


伝えられないから。


だからあたしは、


黙って後ろを歩くしかなくて。






「関根、どれ食べるかな?」





「何でもいいだろ」





「十夜は?」




ちょこちょこ、


あたしの言葉を無視する十夜。


はぁ、と溜め息をついたその時。






「朱里じゃん」





「あ、飯田先輩」






1つ上の、結構仲良かった


飯田先輩と偶然会った。






「藤田くんもいるじゃん。買い物?」





「あ、関根に頼まれて」





そう言うと、なるほどねと


共感してくれたように笑った。






「あ、そうだ。朱里さ」





言いにくそうに躊躇いながら。





「聞いたんだけど、諒司と別れたの?」





そう言った。


久しぶりに聞いた諒司先輩の名は、


今は聞きたくないもので。






「あ、はい…」






別れたことを、


きっと十夜は知らないから。


だから、今知って。


きっと驚いてると思う。


あー、飯田先輩。


話すの今じゃないですよ。






「そっか。ま、また話そ」





肩をばしばし叩いて、


飯田先輩は去って行った。






「朱里レジ行くぞ」





「あ、うん」





「好きなジュース、買ってやる」





「え?」





レジに向かう途中の、


飲み物コーナーで立ち止まり。


早く選べ、と急かす。