ここで泣いて、


引き止めたら戻って来てくれる。


あなたがいい、と。


そう一言言えば、


諒司先輩は戻って来てくれる。


でも、あたしはもう決めたから。


諒司先輩が、背中を押してくれた。


最後の最後まで、いい人だった。






「帰りたくない…」





あたしは諒司先輩が


いなくなってから、


何本も駅からのアナウンスを


聞き流した。


動けなかった。


思った以上に、


彼を失った衝撃は大きくて。


どうしてだろう。


自分の最低さに呆れて、


立ち上がれない。







「朱里ちゃん」





そこに。


聞き覚えのある声が聞こえて来て。


驚いて振り返ると、


そこには健先輩がいた。






「何、で…」





「話は後で。こんな所に1人でいたら、危ないだろ」






ほら、立って。と。


あたしの腕を引くと、


そのまま離すことなく


海に背を向け、


砂浜を出る。


向かったのは駅ではなく、


健先輩の車で。






「車…?」





「諒司がさ、朱里ちゃん電車乗らないだろうから、迎えに来てやってくれって」





「そんな、ことまで…」





あーあ、もう。


最後の最後まで、


あたしのためにしてくれて。


あたしは助手席に乗り、


シートベルトをしめ。


お願いします、と告げる。







「結構長い間、いたね。ここ」





「え、そんなにですか?」





「俺が着いてから軽く1時間は経ってる」





そうだったんだ、と時計に目をやると


もう夜の8時過ぎ。






「ごめんなさい、来てもらって」






「謝ることない。俺たちの仲、だろ」





「はい」







窓を開けると、


気持ちのいい風が入ってくる。


海沿いの潮のにおいが少し、して。







「遊園地行ったんだって?」





「あ、そうなんです。大きくて、2人で驚いちゃって…、」






健先輩があまりにも


自然に話すものだから。






「で、諒司先輩、騒ぎまくっちゃって」





「そうだったんだ」





「でもたくさんジェットコースターとか乗りました」






今日あった出来事を、


さらさらと話してしまった。