「何もねえよ」
「ふーん」
「何で?」
「だって、すごい笑ってるから」
正直に、そう言うと。
吹き出して笑う十夜。
あたしもつられて、
少し笑う。
本当、この感じが。
「何だ、それ。俺が笑うとそんな変か?」
「変っていうか、そうじゃなくて…っ」
「あー、ってか、ごめんな」
少し空いた間を埋めるように。
十夜の口から出た言葉は、
意味の分からない謝罪だった。
「え?」
「いや、電話とかして、悪かったなって」
「え、何でっ…」
そこに、着信が入って。
携帯を見ると、麗華の名前があって。
「もしもっ…、あ、ごめん。今ちょっと十夜と話してて。うん、今行く」
麗華は待ちくたびれたと
言いたげに、マシンガンのように
言いたいことをばーっと言い、
ぶちっと電話を切った。
「中山?」
「ううん、麗華。早く来いって」
「そっか」
何だろう。何だろう。
十夜は何で、
電話のことを謝ったり
したんだろう。
あたしは何で、
こんな気持ちになってるんだろう。
「じゃ、またな」
「あっ…うん、じゃあね」
呼び止める権利は、
あたしにはない。
去って行こうとする十夜に、
本当は後ろ髪引かれてる。
十夜が。
「待っ…」
恋しい。
ずるい。あたしは、ずるい。
だけど、恋しい。
「朱里!」