「もう1回、する」
「だーめ、終わり」
だだをこねる、諒司先輩。
あたしは見て見ぬふり。
結構可愛かったりするけど。
ここで甘やかさないのがあたしで。
「早く帰って、寝て下さい」
「分かったよ」
しょぼんとする諒司先輩が。
何だか可哀想で。
「もう、仕方ないなぁ」
あたしは見るに見かねて。
背伸びをして、
諒司先輩の頬にキスをした。
軽く触れただけなんだけど。
あたしなりに頑張ったわけで。
「朱里…」
「おやすみ、諒司先輩」
目の前でいきなりしゃがんで、
うわぁーとうねりだす先輩。
「反則、それ。もう本当可愛すぎる。何だ、まじで」
ぶわーっと話して。
諒司先輩は自分の髪を
くしゃくしゃにして。
「我慢できなくなる前に帰る」
「あ、待って!」
あたしは玄関にそっと入ると、
自分の傘を持ってまた外に戻る。
「これ、使って下さい」
「いいよ。濡れても平気だし」
「いいから使って下さい。風邪、引いちゃうんで」
あたしの押しに負けた先輩は、
しぶしぶ受け取り、傘を開く。
「じゃあ、借りてく」
少し出来た距離が、
段々開いていって。
「また連絡する」
「うん、待ってる」
「朱里、おやすみ」
最後に笑顔を見せて、
諒司先輩は暗闇を歩いて行った。
今日1日で色んなことあったなって。
どれもこれもがいい思い出で、
ずっと忘れないでおこうと思った。
来年はどうなるか分からないけど、
今を楽しみたい。
今を、諒司先輩を。
大事にしたい。
もう、それしかないんだと。
何回も言い聞かせて。
また、涙が出た。



