「いったたた、たた…」







右手をお腹に当て、


左手はぎゅっと力を込める。


ひんやりした廊下を、


ゆっくり歩みを進める。







3限目の世界史の時間。


あたしは、腹痛を訴え


保健室へ行くことにした。


キリキリと痛むお腹を


押さえながら、保健室の


ドアに手をかけた。









「失礼しまーす…」






授業中ということもあって、


知らずの内に声が小さくなる。







「すいません、あの…」






「あら、朱里ちゃん」









ドアを閉めると同時に


敷居を擦る音が鳴り響く中、


キレイで透き通るような声が


耳に残る。








「え、と…お腹が…」






「はい、仮病ね」








…………。







バレました。









「…はい」






「いつもだよね、全く…」









そうです、あたし。


よく仮病を使っては保健室に来ている。


別に寝るだけじゃなくて、


あたしなりの目的があって。









「ほら、頑張って走ってるわよ…彼」








先生に言われ、


飛びつくように


窓際に駆け寄る。


視線の先にはグラウンドがあって、


そこでは体操服を着た学生が


体育の授業を行っている最中だった。