雨のち晴






「十夜!」





そこに現れた里菜。


あ~あ、もうお出ましか。


俺は冷静にそう考えて。


こっちに近付いてる里菜を。


朱里に近付けたくなくて。




「優勝、おめでとう」




そう言って、里菜の方に歩いて、


でも多分今触れたら里菜から


見えないから。


だから、少しだけ。


俺は自分のわがままで、


朱里の髪に触れた。


抵抗なし。


もっと、触れていたい。


こんなにも好きって、


もしかして俺、異常?


そんなことを考えながら、


心の中はウキウキで。


さっきまで朱里の頬に当てていた


ペットボトルの中身を


飲み干す。


もう俺の耳に、


里菜の声は入って来ない。


しゃーねーだろ。


もう頭には、


結構前の段階で朱里しか


ねーんだからさ。


それから夏休みに入って。


少し期待してた補習はなくて。


朱里に連絡しようと、


携帯は手に取るけど。


話す言葉が見つからなくて。


結局夏休み中、連絡を取ることはなくて。


もちろん朱里から来ることも


なくて。


だけど里菜からは、


どんだけ暇なんだよって


くらい来てて。


毎度のことなのに、


朱里からの連絡が全くないことに、


寂しさを感じてる部分があった。


夏休みが明けた時、


何話そうか。


8月後半からずっとそんな


ことを考えてて。


始業式で見かけた時に、


また丘谷と一緒にいて。


でもそこで思ったのは、


あれ何か雰囲気違う。


朱里の雰囲気も変わったし、


2人の距離感も違うっていうか。


言葉に上手く表せないけど、


近くなったというか。