さて、帰りますか。


あたしは夜道を1人で歩く。


恵衣も麗華もとっくに帰っていて、


今日のことを話せなかった。


ま、また学校で話せばいいか。


あたしはそんなことを考えながら、


空を見上げた。





「綺麗…」





星がたくさん出てて、


綺麗すぎる。


あそこにオリオン座で、


あそこにカシオペヤ座。


で、あそこに…。


あれ、おかしいな。





「見えない…」





さっきまで見えてた星が、


曇って見えなくなって。


そして耳に水滴が流れて来て。


一瞬雨かと思ったけど、


そうじゃなくて。




「涙、か…」




思いがけなくあふれ出ている、


あたしの涙だった。




「あ~あ、もう…終わったの」




本当に本当に、今日で終わり。


十夜を想って泣くのは、


今日で最後。





「一緒にいたかった」




隣で笑うのが夢だった。


十夜に少しでいいから、


触れたかった。




「好きだった」




もう、過去形。


十夜は別の人を選んだ。


あたしも別の人を選んだ。


諒司先輩がいる。


十夜にも、里菜ちゃんがいる。


大丈夫。


十夜がいないことなんて、


慣れっこなんだから。


あたしはいつも、


1人だったんだから。





「今まで…、ありがと」





あたしは携帯を開くと、


電話帳で藤田十夜を探し。





「ばいばい」





迷うことなく消去した。


これで1から頑張れる。


もう忘れられる。


大丈夫、もう。


あたしは1人じゃない。


好きだったことは胸にしまわず、


忘れてしまおう。


今度会ったら、


笑っておはようって


言えたらいいな。


普通に普通の友だちとして、


仲良くなれたらいいな。


あたしはこの、


満天の星空に祈った。


十夜が幸せでいられますように。


これからも十夜が苦しまず、


ずっとずっと笑っていられますように。


こんな時でも、十夜のことを


願うのが、祈るのかと、


自分に呆れたけど。


今日だけだから、と。


そう言い聞かして。


たくさんお願いごとをした。