「朱里、泣くな」
諒司先輩は優しくあたしを抱きしめ。
左手で背中、右手で頭を撫で。
「俺の所に来い」
耳元で小さくそう囁いた。
「藤田を想っててもいい。俺が忘れさせる。絶対幸せにする」
この人は。
諒司先輩は、損な性格だと思う。
十夜を想っててもいいだなんて。
どこまでいい人なの。
「俺は泣かせない。悲しませない。ずっと隣で、お前を笑わせるから」
「諒司先輩…、」
こんなにもあたしを想ってくれてる。
あたしはすごく迷ったけど。
「まだすぐには忘れられないけど、」
この人を信じてみよう。
諒司先輩と一緒なら、
忘れられる気がする。
努力なんてしなくても、
彼を好きになれると思う。
「それでも、いい…?」
「いい。それでもいい。一緒に忘れよう。ずっと一緒にいよう?」
あたしは頷いた。
もう十夜を忘れる覚悟は出来た。
これから少しずつ、
十夜との思い出を消していこう。
これから何があっても、
この人の手を離さないでおこう。
「朱里、俺と付き合って下さい」
確認するように。
消えそうな彼の告白に。
あたしは精一杯頷いた。
それを確認した諒司先輩は、
絶対守るからと。
優しく言ってくれた。



