そんな、普段は捧げることのない甘い言葉の大群を残して彼はいなくなってしまった。
彼の使っていた服も歯ブラシも靴も、なくなっていた。
彼がいたという証拠が希薄なこの部屋は、どんどんと彼女から彼の思い出を奪っていく。
けれどそんな部屋にもひとつだけ、彼がここにいたという確かな証が残っていた。
「海月…」
何の飾り気もない、四角い写真立て。
その中には、確かに笑いあう2人がいた。
海がとても遠いこの土地で、海に焦がれるような名前を付けられた2人。
羽美と海月。
高校生の頃に初めて出逢った2人は、お互いの名前に引き寄せられるように惹かれあった。


