彼女の隣で微笑む彼。
一枚の写真を見ただけで無数の思い出が蘇る。

彼がここを出ていって最初の頃は、この写真を見て毎日泣いていた。

写真一枚でバカみたいに、声を殺して泣いていた。


けれど今、羽美の瞳から涙はこぼれない。
それは泣かない強さではなく、泣けない弱さだった。

泣いてしまえば、想いが涙に溶けてしまえば、彼への想いが薄れてしまう気がして。

だから彼女は涙を封印したのだ。


時が止まることがないのはわかっている。

現に彼が消えてから5年の月日が流れているのだ。

けれど彼女の中の時は、未だに進んでいないように思える。


残すべき思い出の取捨選択ができないまま、羽美は今も苦しんでいた。