5年間新月の日が続いたとしても、海は月を忘れない。
羽美もまた海月の残像を捨てられずにいた。
これからだっていつまでも待つつもりだ。
でも、でもね海月。
早く戻って来てくれないと君の声が思い出せなくなりそうだよ。
もうずいぶん薄れてしまっているの。
君の歯ブラシは何色だったっけ。
今は潰れてしまったけど、前に君とご飯を食べに行った店の名前は何だったっけ。
君がテレビを見ながら好きだと言っていた犬は、どんな模様だったっけ。
そんな些細なことと嗤われるかもしれない。
でも私はどんな小さなことでもいいから覚えていたい、繋ぎとめていたい。
君を思い出の中に縛り付ける方法は、他にないから。


