「…………」



あれ……、今……。
なんて言った?

今“寅沢くん”って言った!?

名前呼んでくれた!?
初めて呼んだ!?


愛澤さんは黙ってしまった俺が気になり顔を窺うように腕を目から退けた。
今の俺、放心状態。



『ああー!!言うんじゃなかったァー!!!!』



俺の反応をどう受け取ったのか、彼女はまた目に腕を当て顔を隠す。

……俺の経験上、これはもしかして!?だったりする。

ヤバい、どうしよう……。
嬉しすぎる。
心臓がヤバい!



「愛澤さん」

『!!』



俺の声にビクッと体をびくつかせる。



「呼んで?」

『……』



彼女は動かない。



「もう一回、名前、呼んで?」



愛澤さんそろそろと俺の方を向いた。
瞳を涙で濡らしながら、俺を見る。



『名前?』

「うん。初めて呼んでくれた」

『呼んでなかったっけ?』

「うん。だからもう一回」

『……』