「ジュディ・アボットは捨て子だったのよ」

うだるような暑さの真夏日。

私はいま、幼なじみの海野 瞬(うみの しゅん)と一緒の下校途中。

今日の私達の帰りの話題は、先週出された宿題の読書感想文。

「だけどね。最後には、自分を援助してくれた素敵なおじさまと、結婚したのよ」

私が感想文を書くのに選んだ本は、言うまでもなく、
『あしながおじさん』
である。

「へぇ〜、いちごちゃんて、そういう本が好きだったんだ? ぼくはてっきり、いちごちゃんは“シャ−ロック・ホームズ"とか“怪人二十面相"とかの推理ものを選ぶのかと思ってたよ」

こんな変なことを言ってくるのが、私の幼なじみ、海野瞬なのだ。

(嫌いじゃないけど、推理小説じゃ、感想文は書けないでしょうが!!)

そう思いながらも、

「好きな本って言うよりも、私にピッタリって気がするのよ」

そう言った。

「ふ〜ん。どこらへんが?」

瞬がすかさず、そう聞いてきた。

幼なじみとはいえ、結構イヤなことを言うやつである。

まぁ、根はいい子なんだけどね。

確か、わたしのことを最初に『いちごちゃん』て呼んだのも、彼だった気がする?

「それより、瞬は何の本にしたのよ?」

答えるのも面倒だったので、私は聞き返していた。

「トムソーヤの冒険。やっぱり僕、冒険ものが好きだな。悪い魔王をやっつけたり、捕らえられたお姫様を助けたりとかさ」

これこれ、瞬くん。
トムソーヤの冒険には、魔王もお姫様も出てこなかったような気がするけど?

どうやら瞬は、まだその本を読んではいないようね。

そうこう話しているうちに、私たちはお互いの家の前までたどり着いていた。

瞬の家と私の家は、お隣りさん同士なのだ。

「ねぇ、いちごちゃん。カバン置いたら、公園でサッカーしない?」

「う〜ん。今日はやめとく。宿題の感想文、仕上げちゃうわ。瞬もそうしなさい」

「え〜、まだ日にちがあるじゃないか!?」

「でもダメ!」

「ちぇっ、つまんないな」

「じゃあね、瞬」

「うん、さよなら。また明日ね」