何かを考えているような華梨がココアをすする音と、外の激しい雨音だけが鼓膜を刺激する。そのまま何分経ったかはわからないけど、マグカップを机に置いたコツリ、という音を合図にするように、華梨がようやく口を開いた。


「……あたし、憐に言ってないことがあったの。」

「言ってないこと?」

「そう。本当はずっと言おうと思っていたのだけど、なかなか言えなくて。」


ぽつりぽつりと話し出した華梨が、俺に言ってないこと…
言いにくかったこと…

思い当たる節が無くて耳を傾ければ、思いもかけない言葉が脳を揺らした。


「あたし、実はね……、少し前から、海藤家の御子息との縁談が持ち上がってたの。」

「縁談…?」


縁談って……

恐れていたことが、現実になりかけている気がした。
嫌な予感はあたるんだ。これで俺はもう、華梨の傍にいることさえ許されなくなる。


「ええ。けれど、もちろん断るつもりだった。ちゃんとパパとママに憐のことを話して、海藤さんには嫁がないって、そう言うつもりだったのに……」


どくどくと大きく脈を打つ心臓。話続ける華梨の言葉を黙って聞いていたけれど、そこまで言って華梨は口を噤んだ。と同時に、一筋の涙が頬を伝う。