やはり死骸は有効ではなかった。 不幸など何も無い。 いつも通りだ。いつも通り、瞳子がいて、僕の隣で、綺麗な黒髪をシーツに広げて眠っている。 長い睫毛が、たまにピクリと動くのがいとおしい。 瞳子とは一年前、海辺で知り合った。 縁とは奇妙なもので、彼女はもともと自殺志願者だった。 身を投げようとしていた所を、僕が止めた。 助けたなんて、大それたことは言えない。 あくまで、あの時彼女が望んでいたものは“死”だったのだから。 しかし僕は、瞳子が生きていることが嬉しいのだ。