歌の練習が始まった。
定番の蛍の光や、校歌、君が代が歌われる。
本番には泣いて歌えないだろうに、どうして練習する必要があるのだろう。
長年の疑問だったりする。
 
歌の途中、震えた声が微かに聞こえた。
きっと感情が高ぶって、泣いているコがいるんだろう。
 
ふと、全体を見回したとき、祐也の背中が目に止まった。

手に入らなかった、その背中。

抱き締めたいのに……私のものじゃない。

 
見ているだけしか、できない。


そして、明日が終われば、見ることすらできなくなる。
そう思うと、少し泣きそうになった。