七つの黒真珠を持ち、類い希なる美貌の女薬法師、紅の唯一の弟子であるカイラムの朝は早い。

 薬法師の弟子だからと言うよりは、紅の朝食を作るために早いと言った方がいい。

 いつもは、彼の正確な体内時計によって同じ時間に起きて、朝食の支度をし、紅が毎朝行う湯浴みの為に大量の湯を沸かす。

 しかしその日は、香ばしい茶の香りで目覚めた。

 この香りは南方地方領カラン・バリアス産の黒麦茶の中でも最高級グレードのノワルワルド……

 カイラムはベッドから飛び起きて彼の部屋からダイニングに飛び込んだ。

「師匠、何を淹れてるんですか、そのノワルワルドは一つまみ千平均通貨《ジード》するんですよ!」

 ダイニングテーブルで、銀のポットからノワルワルドのビロードの様な滑らかな茶をティカップに注いでいる紅に向かって叫んだ。

 紅は、そんなカイラムを少し驚いた様に目を丸くして見詰めた。

 師匠にしては珍しい反応に、カイラムも言葉が詰まる。

 ティカップから茶が溢れるのを見て、カイラムが正気に戻った。

「師匠、溢れてますってば、いくらすると思ってるんです」

 その声に、紅も我に返った様子で、しかし、慌てるでもなくゆっくりとポットを上げ、テーブルに戻した。

 その間、ずっとカイラムを見たままだった。

「?」

 流石に、彼も疑問に思う。

「師匠?」

 その呼びかけに、紅はにやりと笑みを浮かべて言った。

「その姿は、師匠に対してのサービスのつもりかい?」

 そして、彼も気付いた、自分が一糸まとわぬ裸のままだと言うことに……