私の隣を歩く彼の名は、
 上野(うえの)航(わたる)。

 何を隠そうわたるは私の従兄弟だ。
 私と同い年だが学年が一つ上のわたるは、
今年の春休みに、
進学が決まった大学に通うため、
故郷であるこの街に戻ってきた。

 私の叔母さん(のりちゃん)はもちろん、
一家全員でこの街に越してきたのだ。


 わたるとは同じ保育園で
三年ほど一緒に過ごした。

でも小学校に上がる少し前に、
父親の転勤で隣県に引っ越してしまったのだ。

その後ちょくちょく
上野家に訪れることがあったが、
あまり接した記憶がない。
ただ一緒の食卓を囲んで、
のりちゃんが作ってくれたご飯を
食べたという印象はあった。



 母から
『春休みに上野一家が戻ってくる』
と聞いたときは、ビックリ仰天だった。
と、同時に喜びで一杯だった。

上野一家に遊びに行くのは、
長期休暇の楽しみの一つだったから。
同市に住んでいれば、幼少時代のように
休みのたびに遊びに行けるようになる。

 上野一家が春休みに越してきてから、
現在のゴールデンウイークに至るまでの間に、
十数回はお邪魔したことだろう。

一年ぶりに再会したわたるは、
最後に会った時と比べて、
また一段と凛々しくなっていた。
これまで、お互いが成長していくにつれて
会話をすることが増え、
照れくさい気持ちは多少ありつつも
相手と向き合ってみようと
思い合っていた。