「ふーん。必要以上に喋らない、芯の強い子……ねぇ。なんだよ。お前も結構その気じゃん。あの子、狙ってんの？」
佐倉の言う“あの子”とは、先ほどの新入社員のことだ。
「いや、そんなんじゃないから」
「へー。女に興味がないお前がねー、ついに女をねぇ。あぁいうのがタイプだったとはな」
佐倉は、僕の答えを完全無視して、満足気に何度も頷いた。
「あ。そういえば、お前来週会社休むんだっけ？」
「あぁ。……悪いな」
「いや、別にいいけど。珍しいな、お前が私用で休むなんて。実家だっけ？」
「あぁ」
佐倉が突然閃いたかのように、話題を切り替えてきたものだから、
いつもの愛想のない返事に、更に輪を掛けたぶっきらぼうな声になってしまった。
コイツはたまに、不意打ちで爆弾を投げ込んでくる。
これが、計算されたものなのか、天然なのかは、誰も知ることはできない。
「ますます珍しいな。お前から一度も、故郷の話なんで聞いたことなかったのに。
故郷と女の話はお前にはタブーなんだと勝手に思ってたわ」
単純に、不思議がる佐倉に、僕は曖昧な笑みだけを返した。
そんな僕に佐倉は何か感じ取ったのか、興味本位の笑みも消し去り、それ以上、深く問い詰めようとはしなかった。
「そういや、お前が休むって言ったあと、朝倉も休暇願出してたな……」
思い出した独り言のような、佐倉の呟きは、再び現れた新たな邪魔者のおかげで、何処かへと流れていった。
