家に帰ると、沙織はブランデー入りの紅茶をみんなに入れる。
 一息ついてから、綾と沙織は、今日あったことをお互いに報告し合った。
 しばらくみんなは、黙っていた。

「これからどうするかねぇ…」

 その沈黙を破るように頭の後ろに手を組んで、綾が呟く。
 今回の敵の目的はおそらく、人間を支配すること…。
 だが、同じ人間の能力者が敵に回ることは、今回が初めてだと、悠は言った。
 そして気になるのは、綾があのマンションで聞いたという女の存在だった。
 少なくとも、主力の敵は二人いることになる。
 もうすでに、一樹とその女は行動し始めている。
 駅にいた人々皆が、すでに支配されていたのだ。
 かなりの人数だった。

「一樹は人間の心を巧みに操るわ…」

 沙織の能力を、一樹は欲しがっていた。
 そして、悠と諒の存在も知っていた。

「奴は必ず、また何か仕掛けてくる」

 悠が言った。

「とにかく、いつ攻撃されるか分からないから、単独行動は絶対に避けよう…特に」

 悠は綾を振り返る。
 だが綾はすでに、テーブルに突っ伏して眠っていた。

「まったく…諒、部屋に連れていってくれ」

 あれだけ強力な結界の中で暴れていたのだ。
 綾も相当疲れているのだろう。
 諒は綾を抱えて、リビングを出ていった。

「余程暴れたな、あいつ…」

 悠は苦笑する。
 今回は物理的な攻撃しか受けていなかったらしく、悠の癒しも必要なさそうだった。
 そして悠は、何か深刻な顔つきをしている沙織に気が付いた。

「どうしたの?」
「うん…」

 沙織の能力がまだコントロール出来ないのも、一樹は知っている。

「あいつ、それを探るために、私達を見張るようなことをしてたのかな…」

 あの男はこちらの、何を知っているというのか。

「俺は、あいつは何も知らないと思うけどね」

 悠は紅茶を一口飲んだ。
 沙織が不思議そうに悠を見る。

「何もかも知っているなら、人間を支配しようなんて思わないはずだよ」
「どうして?」
「どんな力を持ってしても、人の心を完全に支配することなんて出来ないからさ」

 そう言って、悠は笑った。