作曲に夢中になっていたら、いつの間にかソナがブースの外のイスに座ってヘッドフォーンを装着して、俺がいるブース内の音を聴いていた。



俺がソナに気付くと、ソナはブース内のスピーカーのスイッチをオンにして、



『オッパ、もう夜の8時だよ。

お食事にしましょう。』



と、マイクに向かって喋っている。



「分かった。

直ぐに上にあがるよ。」



と言うと、わかったとばかりに大きく頷いたソナは、スピーカーのスイッチを切って、ヘッドフォーンを外して上にあがっていった。



俺は、ギターアンプの電源を落とし、換気扇と空調を切り、電気を消してブースから出てきた。



一階に上がると、



『オッパ、サーモンとイクラのスープパスタ作ったから食べよう。』



「ウワァ~、美味しそうだなぁ。

こっちは何?」



『それは、私の。

あんまし食欲無かったから、新潟の友達が送ってくれた鮭とばでリゾット作ってみたの。』



「なんか、そっちもそそられるなぁ~!」



『後は、パンチェッタとルッコラとサラダ菜でサラダ作ったんだけど、冷蔵庫に美味しそうなドレッシングが有ったから掛けてみたの。』



「そのドレッシングは、済州島(チェジュド)のマンスオジサンが作って送ってくれた、済州(チェジュ)ミカンと数種類のハーブで作ったドレッシングなんだよ。」



『そうなんだ。

ちょっと味見したときに、とっても食欲が湧いてくる味だったので、サラダにして、かけてみようかなぁって。

これなら、何となく食べられそうよ。』



「つわりを抑える薬も飲んでるよな!?」



『もちろんよ。

さっきまでと比べたら、大分楽になってるわ。』



「良かったね。

さぁ、暖かいうちに食べよう。」



その時、リビング奥の犬小屋では、巨連(コヨン)が今か今かと晩飯が出てくるのを、心待にしているのをコロッと忘れていた二人であった。



二人が食事を終えて、食後のコーヒーを楽しんでいると、ついに我慢の限界になったコヨンが、



《ヴァフ ヴァフ!!!》



と鳴きながら、リビングとの境のガラス張りの窓をカリカリし始めた。



『アッ、コヨンの晩御飯を忘れてたわ!』



「ハハハ!

コヨン、ゴメンゴメン!

ちょっと待ってろ。

直ぐに飯にしてやるからな。」



マッタク、ゴシュジンサマ ワスレナイデクレヨ!
ハラヘッタナァ~!



って顔で、お気に入りのフカフカのワンちゃんクッションの上でフセをしたまま、飯の準備が出来るのをジ~ッと見つめるコヨンであった。